工場の設備・機械の塗装|見積り前に決めておく3つの判断軸

工場内に据え付けられた大型生産設備。設備・機械の塗装で塗り替えの対象になる鋼製の架台と外装カバーが写っている

この記事の結論。工場の設備・機械の塗装では、面積と金額より先に決めるべきことが3つあります。①どこまでさびと旧塗膜を落とすか(素地調整の程度)、②設備を何時間・何日止められるか、③塗膜に何をさせたいか(防錆・耐熱・耐薬品・識別のどれを最優先にするか)の3つです。この3つが決まっていない状態で相見積りを取ると、各社が別々の前提で積算するため、金額差の理由が最後まで読めません。

塗装naviプラスは株式会社ユーコーが運営する情報サイトで、塗装naviプラス自体では施工を行っていません。特定の工法や塗料を売り込む立場にないため、以下は判断材料として整理しています。数値と区分はすべて出典を本文に明記しました。

目次

設備・機械の塗装は、住宅の外壁塗装と前提が4つ違う

住宅塗装の感覚がそのまま通じないのは、素地・稼働・塗膜の目的・作業場所という4つの前提が違うためです。この4つが、そのまま後述の3つの判断軸につながります。

前提住宅の外壁塗装設備・機械の塗装
素地モルタル、窯業系サイディングなど鋼、鋳物、アルミニウム、ステンレスなどの金属
対象の状態止まっている。乾燥時間を確保しやすい稼働している。止めれば生産が止まる
塗膜の目的美観と建物の保護防錆・耐熱・耐薬品・耐油・識別のいずれか
作業場所個人の住宅稼働中の事業場。労働安全衛生関係法令が発注側にも関わる

判断軸① どこまで既存の塗膜とさびを落とすか

見積り金額の差が最も大きく出るのは、塗料のグレードではなく素地調整(ケレン)の程度です。同じ塗料を使うと言っているのに金額が違うときは、たいていここが違います。

旧塗膜が剥がれてさびの出た鋼材面と、素地調整で金属地まで落とした面を並べて写した様子
素地調整をどこまで行うかで見積り金額は大きく変わる(イメージ)

素地調整の程度は1種から4種に区分されている

素地調整の程度は、公益社団法人日本道路協会『鋼道路橋防食便覧』(平成26年3月)で1種から4種に区分されています。鋼構造物の塗装では、この区分が共通言語として広く使われています。

程度落とす範囲主な作業方法
1種さび、旧塗膜をすべて除去し鋼材面を露出させるブラスト法(研磨材を高圧で打ち付ける)
2種旧塗膜、さびを除去し鋼材面を露出させる(さび面積30%以上が目安)ディスクサンダー、ワイヤホイルなどの動力工具と手工具の併用
3種活膜(健全に残っている塗膜)は残し、さび・割れ・膨れなどの不良部を除去する動力工具・手工具。さび面積と塗膜異常面積により3A・3B・3Cに細分
4種活膜を残し、汚れを落として軽く目荒しすることが主(さび面積5%以下が目安)動力工具・手工具
出典:公益社団法人日本道路協会『鋼道路橋防食便覧』(平成26年3月)の区分

発注側が決めるのは「程度」ではなく「何年もたせたいか」

1種から4種のどれにするかを、発注側が指定する必要はありません。決めるべきなのは目標年数です。「次の設備更新まであと3年もてばよい」のか、「更新予定がなく、できるだけ長くもたせたい」のかで、提案される素地調整の程度は変わります。

ここを伝えないまま見積りを取ると、A社は3種、B社は2種で積算し、金額差の理由が読めなくなります。見積り依頼のときに目標年数を書き添えるだけで、比較できる見積りになります。

判断軸② 設備を何時間、何日止められるか

止められる時間で「現場で塗るか、外して持ち出すか」が決まります。停止時間が取れないほど現場塗装に寄り、取り外せる部品が多いほど持ち込み塗装の選択肢が広がります。

稼働中の工場内で、塗装のために養生シートで覆われた設備。周囲の機械はそのまま残っている
現場で塗るか、外して持ち出すかは止められる時間で決まる(イメージ)

現場塗装と持ち込み塗装の使い分け

比較項目現場塗装(構内で塗る)持ち込み・引き取り塗装
向く対象動かせない大型設備、架台、配管、タンク、建屋内の鉄骨取り外せる部品、治具、カバー、架台の一部
停止時間養生・施工・乾燥の全工程ぶん、その場所を止める取り外しと取り付けの時間だけ。塗装中も他工程は動かせる
仕上がりの条件現場の温度・湿度・粉じんの影響を受ける設備の整った環境で塗るため、条件を揃えやすい
制約養生範囲が広くなる。火気・換気の管理が要る運搬が必要。塗装設備に入る寸法・重量に上限がある

焼付塗装や粉体塗装は、塗装後に加熱する工程が必須です。加熱炉に入る寸法であることが前提になるため、原則として持ち込み側の選択肢になります。工法そのものの違いは粉体塗装と液体塗装は何が違うのか|工場設備の塗り分け基準と焼付塗料、ローラー塗装塗料、粉体塗料の違いとは?で整理しています。

「止められない」ときの選択肢

停止時間が確保できない場合でも、打つ手がないわけではありません。対象を区画やユニットごとに区切り、定期休止日ごとに分割して施工する進め方があります。ただし分割すると総工期と総額は増えます。ここは最初に確認しておくべきところです。

判断軸③ 塗膜に何をさせたいか

設備・機械の塗装で塗膜に求められるのは、主に防錆・耐熱・耐薬品/耐油・識別の4つです。このうち最優先を1つ決めておくと、業者は塗料系統を絞り込めます。

色分けして塗られた工場内の配管。防錆だけでなく識別も塗膜に求められる性能のひとつ
識別色を使う場合はJIS Z 9103:2018の安全色に合わせておくと後から入る作業者にも通じる(イメージ)
塗膜に求める性能主な対象部位
防錆屋外設備、水がかかる部位、結露する部位
耐熱加熱炉まわり、蒸気配管、排気ダクト
耐薬品・耐油薬液を扱う設備、切削油がかかる部位
識別配管や危険箇所を色で見分けさせる部位

性能は足し算にならない

この4つは同時に最大にはなりません。耐熱を優先すれば選べる下塗りが限られ、耐薬品性を優先すれば別の系統になります。「全部ほしい」と伝えると提案が総花的になり、結果として比較ができなくなります。

識別色を使う場合は安全色の規格がある

配管や危険箇所を色で示す場合、日本産業規格に JIS Z 9103:2018「図記号―安全色及び安全標識―安全色の色度座標の範囲及び測定方法」 があります。2018年4月20日の改正で、色覚の多様性に配慮した色度範囲へ見直されています。

社内の識別ルールを新しく決めるとき、あるいは既存の色分けを整理したいときは、この規格に合わせておくと、後から入った作業者や外部業者にも通じます。塗り替えは、色分けを見直せる数少ない機会です。

構内で塗装させるとき、発注側が確認しておくこと

設備塗装は自社の事業場の中で行われるため、労働安全衛生関係法令の適用を受けます。義務の主体は作業を行う事業者ですが、構内に業者を入れる発注側も、体制を確認しておいたほうが当日の手戻りが減ります。

有機溶剤中毒予防規則(有機則)

溶剤系の塗料を屋内で扱う作業には、有機溶剤中毒予防規則(昭和47年9月30日労働省令第36号)が適用されます。主なものは次の3つです。

  • 第十九条(有機溶剤作業主任者の選任) — 有機溶剤作業主任者技能講習を修了した者のうちから選任する
  • 第二十八条(測定) — 六月以内ごとに一回、定期に、有機溶剤の濃度を測定する
  • 第二十九条(健康診断) — 雇入れの際、当該業務への配置替えの際、及びその後六月以内ごとに一回、定期に実施する

令和6年4月1日から全面施行された化学物質規制

労働安全衛生関係法令の改正により、令和6年4月1日から新たな化学物質規制が全面施行されています。塗料・シンナーを扱う作業はこの対象に入ります。

  • 化学物質管理者 — リスクアセスメント対象物の製造・取扱い・譲渡提供のいずれかを行う場合、業種・規模にかかわらず事業場ごとに選任が義務付けられる
  • 保護具着用管理責任者 — リスクアセスメントに基づく措置として労働者に保護具を使用させる事業場で選任する
  • リスクアセスメント対象物 — 令和6年4月1日時点で234物質が追加され、既存物質との統合整理の結果、計896物質となった
  • 有機溶剤中毒予防規則、鉛中毒予防規則、特定化学物質障害予防規則、粉じん障害防止規則などの遵守も引き続き必要

塗装業者を構内に入れる際は、使用する塗料・シンナーのSDS、換気の方法、火気の扱い、立入禁止区画の設定をあらかじめすり合わせておくと、当日の手戻りがなくなります。見積り段階でこれらを説明できるかどうかは、そのまま施工体制の目安になります。

見積り依頼の前にそろえておく情報

3つの判断軸を実務のチェックリストに落とすと、次の9項目になります。相見積りを取る場合は、全社に同じ内容を渡すことが前提です。

  • 対象の名称・数量・おおよその寸法
  • 素材(鋼、鋳物、アルミニウム、ステンレスなど。分かる範囲で)
  • 現在の状態(さびの範囲、前回塗装した時期、既存塗膜の種類が分かればその情報)
  • 設置場所(屋内/屋外)と周囲の環境(熱・薬品・油・水・粉じん)
  • 止められる時間帯と日数、定期休止日の有無
  • 目標年数(次の設備更新の予定があるかどうか)
  • 色の指定、社内の識別色ルールの有無
  • 取り外して搬出できるかどうか
  • 構内作業のルール(入構手続き、火気、立入区画)

写真が数枚あれば、業者側の見立ての精度は上がります。さびの出ている箇所の寄りと、設備全体が分かる引きの両方があると確実です。

まとめ|設備・機械の塗装で先に決める3つ

設備・機械の塗装で見積りが比較できなくなる原因は、面積から話を始めてしまうことにあります。先に決めるべきなのは次の3つです。

  1. どこまで落とすか — 素地調整の程度。発注側は「何年もたせたいか」を伝えれば足ります
  2. どれだけ止められるか — 現場で塗るか、外して持ち出すかが決まります
  3. 塗膜に何をさせたいか — 防錆・耐熱・耐薬品/耐油・識別のどれが最優先か、1つに絞ります

この3つが決まっていれば、見積りは同じ土俵に乗ります。決まっていなければ、金額差の理由が最後まで分かりません。設備・機械の塗装に関する記事は設備・機械の塗装のカテゴリーにまとめています。

よくある質問

設備を止めないと塗装はできませんか

対象と工法によります。取り外せる部品は持ち込み塗装にすれば、取り外しと取り付けの時間だけで済みます。動かせない大型設備は、区画やユニットごとに分割し、定期休止日に合わせて施工する方法があります。ただし分割すると総工期と総額は増えます。

設備塗装の見積りが会社によって大きく違うのはなぜですか

多くの場合、素地調整(ケレン)の程度が各社で違うためです。素地調整は『鋼道路橋防食便覧』で1種から4種に区分されており、1種に近いほど手間がかかります。同じ塗料を使うと言っているのに金額が違うときは、まず各社の素地調整の程度を確認してください。

さびている設備でも塗装できますか

さびの範囲によって、必要な素地調整の程度が変わります。目安として、さび面積30%以上なら2種、5%以下なら4種が『鋼道路橋防食便覧』の区分にあたります。見積り依頼の際は、さびの出ている箇所の写真を添えると、業者側の見立ての精度が上がります。

构内で塗装作業をしてもらうとき、発注側は何を確認すればよいですか

使用する塗料・シンナーのSDS、換気の方法、火気の扱い、立入禁止区画の設定の4点です。屋内で溶剤系塗料を扱う作業には有機溶剤中毒予防規則が適用され、令和6年4月1日からは化学物質管理者の選任も業種・規模を問わず義務付けられています。見積り段階でこれらを説明できるかどうかが、施工体制の目安になります。


設備・機械の塗装を実際に検討する場合

3つの判断軸がそろえば、あとは対応できる業者を探す段階になります。工場の生産設備・機械の塗装は、住宅塗装とは施工体制も設備も異なるため、対応できる会社が限られます。

生産設備・機械の塗装、構造物の塗装を手がける株式会社ユーコーが、対応範囲と工程を公開しています。

※塗装naviプラスは株式会社ユーコーが運営する情報サイトです。株式会社ユーコー(工場・設備の塗装)は当社の事業です。塗装naviプラス自体では施工を行っておりません。


監修・運営者

監修:株式会社ユーコー 代表取締役 沖 裕也(塗装歴25年)。現場と見積りの両方を見てきた立場から、本記事の内容を確認しています。
運営:株式会社ユーコー。塗装naviプラスは当社が運営する情報サイトで、塗装工事は行っておりません。詳しくはこのサイトについてをご覧ください。

出典

  • 公益社団法人日本道路協会『鋼道路橋防食便覧』(平成26年3月)— 素地調整程度1種〜4種の区分
  • JIS Z 9103:2018「図記号―安全色及び安全標識―安全色の色度座標の範囲及び測定方法」(日本産業標準調査会)
  • 有機溶剤中毒予防規則(昭和47年9月30日労働省令第36号)第十九条・第二十八条・第二十九条(厚生労働省)
  • 厚生労働省「化学物質による労働災害防止のための新たな規制について」
  • 厚生労働省 京都労働局 労働基準部 健康安全課「令和6年4月1日から新たな化学物質規制が全面施行されます」— 追加234物質・計896物質
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