既存塗膜の有害物調査|設備の塗り替えを依頼する前に確かめること

「既存塗膜の有害物調査 設備の塗り替えを依頼する前に確かめること」の文字と、塗膜が剥がれて錆が出た古い鋼製タンクの壁とスクレーパー

この記事の結論

古い設備の塗り替えで今ある塗膜を削ったり剥がしたりする場合は、その塗膜に鉛・PCB・石綿が入っていないかを、工事の前に確かめる必要があります(既存塗膜の有害物調査)。発注側の役割は、設備がいつ設置され、いつ塗り替えたかの記録を業者に渡すことと、調査にかかる費用と日数を見込んでおくことです。今の塗膜を削らずに上から塗り重ねるだけの工事は、石綿の事前調査の対象外とされています。

「古いタンクや架台の塗り替えを頼みたいが、昔の塗料に有害なものが入っていたら何をすればよいのか」という工場の保全・購買担当の方に向けて、塗り替えを依頼する前に発注側が確かめることを、できるだけ日常の言葉で整理します。

監修:株式会社ユーコー 代表取締役 沖 裕也(塗装歴25年)/運営:株式会社ユーコー(運営者情報)

目次

既存塗膜の有害物調査とは|削る前に、今の塗膜の中身を確かめること

既存塗膜の有害物調査とは、塗り替えの前に、今ついている塗膜に鉛・PCB・石綿などが入っていないかを確かめることです。入っていれば、削り方・作業者の守り方・削りかすの処分のしかたが変わります。

塗り替えでは、錆や浮いた古い塗膜を工具やブラストで落としてから新しい塗料を塗ります。昔の塗料には、今は使われていない成分が入っているものがあり、削ると粉じんになって作業者が吸い込んだり、周りに飛び散ったりします。そのため、どこまで削るかを決める前に、削る塗膜の中身を確かめておくことが必要になります。

古い工場の中で、色あせた塗膜の縁が欠けて錆が出ている鋼製の設備架台と、その上を通る配管ラック
削る前に中身を確かめたい、古い塗膜が残った設備の例(イメージ)
確かめるものどんな塗料に入っていたか気にしたい設備関係する主な決まり
鉛(あわせてクロム)鉛やクロムを含む塗料古い鋼製の設備・架台・配管など鉛中毒予防規則、厚生労働省の剥離作業の通知
PCB(ポリ塩化ビフェニル)1966年〜1972年1月に製造された塩化ゴム系塗料1966年〜1974年に建設・塗装された屋外の鋼製のタンク・鉄塔・水門などPCB特別措置法(環境省の調査実施要領)
石綿(アスベスト)石綿を含む塗料・仕上塗材建物や工作物(タンク・配管・ボイラーなど)の塗膜石綿障害予防規則、大気汚染防止法
既存塗膜で確かめる主な有害物(記事末の出典をもとに当サイトで整理)

既存塗膜の調査が必要になるのは「今の塗膜を削る・剥がす」工事

調査が必要になるかどうかは、今の塗膜を削ったり剥がしたりするかで決まります。厚生労働省の石綿障害予防規則の解説では、今ある塗装の上に新しく塗るだけで、材料を取り除かない作業は、石綿の事前調査の対象外とされています。

  • 調査を考える工事:錆や古い塗膜を工具で落とす、ブラストで塗膜を全部落とす、剥離剤で塗膜を剥がす、設備の一部を切ったり外したりする
  • 石綿の事前調査の対象外とされる工事:今の塗膜を削らず、汚れを落として上から塗り重ねるだけの工事

ただ、実際の塗り替えでは「錆が出ているところだけは削る」ことがよくあります。削る範囲が一部でも、その部分は取り除く作業になるため、どこまで削る予定かを業者に確かめてから、調査が要るかを判断します。どこまで塗膜と錆を落とすかの考え方は、別記事「工場の設備・機械の塗装|見積り前に決めておく3つの判断軸」で整理しています。

鉛・PCB・石綿のどれを疑うかは「設備がいつ塗られたか」で絞る

どれを疑うかは、設備がいつ設置され、いつ塗り替えられたかで絞り込めます。年代と記録で絞れないものは、塗膜を少し取って分析します。

PCB|1966年〜1974年に塗られた屋外の鋼製設備

環境省の「ポリ塩化ビフェニル含有塗膜 調査実施要領(第4版、2026年5月)」によると、PCBが入っている塗料はすべて塩化ゴム系塗料で、1966年から1972年1月までに製造されたものに限られます。PCB入りの塗料の使用が正式に止められたのは1974年6月です。調査の対象として、石油やガスの貯蔵タンク、鉄塔、排水機場・水門などの屋外の鋼製の設備が挙げられています。

曇り空の下、塗装が色あせて継ぎ目から錆が流れている、屋外にある古い鋼製の貯蔵タンク3基とはしご
年代によってはPCBを含む塗膜を疑う、古い屋外の鋼製タンク(イメージ)
  • まず見るもの:設備の完成図面や台帳で、1966年〜1974年に建設・塗装されたかを確かめます。
  • 対象から外れる場合:1975年以降に、古い塗膜をすべて落として塗り替えた記録があれば、調査は終わりとされています。
  • 分かれ目:全面的に塗り替えた記録がない、または一部だけ塗り替えている場合は、仕様書で塗料の種類を確かめ、分からなければ塗膜を取って分析します。

同じ要領では、PCBが入った塗膜を取り除いた場合、その処分は塗膜を持っている側(設備の持ち主)が責任を持って行うものとされ、工事の元請業者に処分の義務を負わせるものではないとされています。要領では、取り除いた塗膜の大部分は低濃度PCB廃棄物にあたるとされ、低濃度PCB廃棄物の処分期間は、PCB特別措置法で2027年3月31日に終わります(環境省)。PCBの疑いがある設備は、塗り替えの計画を立てる段階で、処分の段取りも含めて考えておく必要があります。

鉛|年代で絞りにくいので、記録がなければ分析する

鉛やクロムを含む塗料は、PCBのように製造時期で絞り込むことが難しいため、塗料の記録がない古い塗膜は分析で確かめるのが確実です。鉛を含む塗膜を削るときは、粉じんが出ないよう水などで湿らせながら行うのが原則です(鉛中毒予防規則)。

厚生労働省の通知(2022年5月18日)では、発注者は塗膜に鉛やクロムなどが入っているかの情報を施工者に伝えることが望ましいとされ、調査や作業者の健康を守るために必要な費用にも配慮するよう求められています。

石綿|2026年1月からは、工作物の調査も資格者が行う

石綿は、建物だけでなく、タンク・配管・ボイラーなどの「工作物」の塗膜でも、削る前の事前調査が必要です。2026年1月1日以降に着工する工作物の工事では、工作物石綿事前調査者などの資格を持つ人が調査を行うことになりました。

  • 調査する人:工作物石綿事前調査者などの資格者(2026年1月1日以降に着工する工事から)
  • 結果の報告:反応槽・加熱炉・ボイラー・圧力容器・配管などの特定の工作物で、請負代金の合計が100万円以上の解体・改修工事は、施工業者が調査結果を労働基準監督署へ報告します
  • 石綿が入っていた場合:石綿を含む仕上塗材を電動工具で削るときは、作業場所の隔離などが義務付けられています

塗り替えを依頼する前に発注側がすること|既存塗膜の調査のための4つ

発注側がすることは、設備の記録を渡すこと、調査の費用と日数を見込むこと、結果を受け取って残すこと、PCBが見つかったときの処分を手配することの4つです。調査や分析そのものは業者や分析機関が行います。

発注側がすること具体的な中身理由
1. 設備の記録を渡す設置した年、過去に塗り替えた年と範囲、塗料名が分かる仕様書・図面。記録がなければ「不明」と伝える石綿障害予防規則では、発注者は石綿の使用状況などを業者に伝えるよう努めることとされている
2. 調査の費用と日数を見込む見積りと工期に、調査・分析の分を入れておく同規則では、法令を守るのを妨げるような費用・工期の条件を付けないよう配慮することとされている
3. 結果を受け取って残す調査結果の写しを受け取り、設備の台帳と一緒に保管する次の塗り替えのときに同じ調査を繰り返さずに済む
4. PCBが見つかったら処分を手配する取り除いた塗膜の保管と処分の委託を、持ち主として段取りするPCBを含む塗膜の処分は、持っている側の責任とされている
既存塗膜の調査で発注側がすること(石綿障害予防規則の規制の概要、環境省のPCB含有塗膜調査実施要領をもとに当サイトで整理)

見積り依頼に書く既存塗膜の情報|記入例

見積り依頼には、設備の年代と塗り替えの記録を書き、調査が要るかどうかと、その費用・日数を見積りの中で分けて書いてもらうよう頼みます。分からない項目は空けずに「不明」と書くと、業者が調査の要否を判断しやすくなります。

書く項目記入例
対象の設備屋外の鋼製タンク 1基(大きさは図面のとおり)
設置した年1970年ごろ(設備台帳による)/不明
過去の塗り替え部分的な補修の記録あり。全面的な塗り替えの記録なし
今の塗料の情報仕様書なし(塗料名は不明)
今回の工事の内容錆が出ている部分を削って塗り替えたい
お願いしたいこと今の塗膜の有害物(鉛・PCB・石綿)の調査が要るかどうかと、要る場合の費用と日数を、塗装の費用と分けて記載してください
見積り依頼の記入例(書き方を示すためのもので、特定の工場の事例ではありません)

調査で有害物が見つかった場合は、湿らせながら削る、作業場所を囲う、作業者の保護具を増やす、削りかすを分けて処分する、といった対応が加わるため、費用と日数が変わります。複数の業者に見積りを頼むときは、「調査を含むか、含まないか」の前提をそろえないと、金額だけでは比べられません。塗装仕様そのものの書き方は「設備の塗装仕様の決め方|錆びやすさともたせたい年数で考える」で整理しています。

まとめ|既存塗膜の有害物調査は、塗り替えを依頼する前の段取り

  • 今の塗膜を削る・剥がす塗り替えでは、鉛・PCB・石綿が入っていないかを先に確かめる
  • 上から塗り重ねるだけの工事は、石綿の事前調査の対象外とされている
  • PCBは1966年〜1974年に塗られた屋外の鋼製設備で疑い、取り除いた塗膜の処分は設備の持ち主の責任になる
  • 鉛は年代で絞りにくいので、記録がなければ分析で確かめる
  • 2026年1月からは、工作物の石綿の事前調査も資格者が行う
  • 発注側は、設備の記録を渡し、調査の費用と日数を見積りに入れてもらう

設備・機械の塗装に関するほかの記事は「設備・機械の塗装」の一覧にまとめています。

既存塗膜の有害物調査についてよくある質問

塗り替えの前に、塗膜の調査は必ず必要ですか?

今の塗膜を削ったり剥がしたりする場合は必要になります。今の塗膜を削らず上から塗り重ねるだけの工事は、石綿の事前調査の対象外とされています。錆の部分だけ削る場合も削る作業にあたるため、どこまで削るかを業者に確かめてください。

塗膜の有害物の調査は誰が行い、費用は誰が持ちますか?

調査は施工業者や分析機関が行い、石綿の事前調査は2026年1月以降、工作物でも資格者が行います。費用の分担は契約で決めますが、発注側は調査の費用と日数を見込み、法令を守るのを妨げるような条件を付けないよう配慮することとされています。

設備がいつ塗装されたか分からない場合はどうすればよいですか?

見積り依頼に「不明」と書いて伝えてください。年代や塗料名が分からない塗膜は、少量を取って分析することで、鉛・PCB・石綿が入っているかを確かめられます。

PCBが入った塗膜が見つかったら、処分は塗装業者に任せられますか?

環境省の調査実施要領では、PCBを含む塗膜の処分は、塗膜を持っている側(設備の持ち主)が責任を持って行うものとされています。取り除いた塗膜の保管と処分の委託は、持ち主として段取りする必要があります。

設備・機械の塗装を実際に検討する場合

当サイトの運営会社である株式会社ユーコーでは、キュービクル・配電盤などのメンテナンス塗装、大型機械設備・貯水タンク・ろ過器などの新設塗装を行っています。古い設備の塗り替えで、今の塗膜をどこまで削るかが決まっていない段階でも、設備の状態をもとに相談ができます。

※リンク先は、当サイトの運営会社である株式会社ユーコーのサービスページです。塗装naviプラス自体では施工を行っておりません。

出典

  • 環境省 環境再生・資源循環局「ポリ塩化ビフェニル含有塗膜 調査実施要領(第4版)」2026年5月8日(環境省)
  • 環境省「低濃度PCB廃棄物処分について」低濃度PCB廃棄物早期処理情報サイト(環境省)
  • 厚生労働省 基安化発0518第1号「剥離剤を使用した塗料の剥離作業における労働災害防止について(一部改正)」2022年5月18日(厚生労働省)
  • 厚生労働省「石綿障害予防規則などの規制の概要」(厚生労働省 石綿総合情報ポータルサイト)
  • 千葉労働局「【石綿】工作物の解体等に係る事前調査者について(令和8年1月1日施行)」(厚生労働省 千葉労働局)
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