粉体塗装と液体塗装は何が違うのか|工場設備の塗り分け基準

工場の設備や部品の塗装を外注するとき、「粉体塗装と液体塗装、どちらがよいか」という聞き方をされることがあります。ただ、この2つは優劣で並ぶものではありません。どちらを選べるかは、塗る対象の条件でほぼ決まります。
決まる、というのは、条件によっては片方が最初から選べない、という意味です。炉に入らない大きさの設備を粉体塗装で仕上げることはできませんし、加熱で変形する部品も同じです。逆に、条件が合えば粉体塗装のほうが向く場面もあります。
この記事では、その分かれ目になる条件を5つに整理します。塗装naviプラスは塗装工事を行っていないため、特定の工法を推す立場にはありません。見積りを依頼する前に、社内で何を決めておけばよいかの材料としてお読みください。
1. まず、2つの塗装は「塗膜のつくり方」が違う
液体塗装は、塗料を液体の状態で吹き付け、または塗り、溶剤や水が抜けたあとに塗膜が残る方式です。常温で乾かすものと、加熱して硬化させる焼付タイプがあります。
粉体塗装は、粉末の状態の塗料を被塗物に付着させ、そのあと加熱して溶かし、固めて塗膜にします。液体で希釈する工程がないため、塗る段階では溶剤を使いません。
この「加熱して固める」という点は、粉体塗装の性質そのものです。日本産業規格 JIS K 5981:2006「合成樹脂粉体塗膜」 の適用範囲は、次のように書かれています。
鉄鋼,亜鉛めっき,アルミニウムなどの金属素地に,塗装前処理を施し,粉体塗料を塗装し,加熱形成させた製品の塗膜の種類,品質,試験方法などについて規定する。
JIS K 5981:2006「合成樹脂粉体塗膜」適用範囲(2006年制定、2020年10月に用語修正)
読み飛ばしやすいところですが、この一文には「金属素地」「塗装前処理を施し」「加熱形成」の3つが入っています。規格が想定している粉体塗膜は、金属に、前処理をしたうえで、加熱して作られたものだけです。前処理も加熱も、あとから省ける工程ではありません。
なお同規格には熱硬化性のものと熱可塑性のものがあり、それぞれ複数の樹脂系が規定されています。規定されている塗膜の性能項目は、外観、塗膜厚さ、耐食性、促進耐候性、耐湿性、引っかき硬度、付着性、耐アルカリ性、耐酸性、耐おもり落下性です。見積りを比較するときに何を揃えて聞けばよいかは、この項目名がそのまま使えます。
| 項目 | 液体塗装 | 粉体塗装 |
|---|---|---|
| 塗料の状態(施工時) | 液体 | 粉末 |
| 溶剤の使用 | 使用する | 使用しない(希釈工程がない) |
| 硬化のしかた | 常温乾燥、または加熱(焼付タイプ) | 加熱により溶融・固化(前提条件) |
| 被塗物のサイズ制約 | 比較的小さい | 加熱炉に入る寸法・重量が必要条件 |
| 主な施工場所 | 現地・持ち帰りのどちらも対応 | 持ち帰り施工が基本(取り外せるものが対象) |
| VOC(揮発性有機化合物)との関わり | 溶剤由来のVOCが規制対象になりうる | 希釈工程がないためVOC排出は生じにくい |
2. 塗り分けを決める5つの条件
条件① 被塗物が炉に入るか
粉体塗装は加熱による硬化が前提なので、加熱炉に入る寸法・重量であることが必要条件です。ここで多くの案件が最初にふるいにかけられます。据え付けられた大型設備、建屋内の鉄骨、配管のように動かせないものは、粉体塗装の対象になりません。
裏を返すと、粉体塗装は「取り外して工場へ運べるもの」の工法です。部品、治具、カバー、架台、盤の外装などが該当します。
対応できる寸法は、施工する側の設備によって変わります。株式会社ユーコー(当サイトの運営会社が営む工場・設備の塗装事業)の場合、焼付塗装では6mの長尺物から、手のひらに載る小物まで扱っています。粉体塗装のブースと炉の寸法は案件ごとに振り分けているため、対応可否は個別の確認になります。
条件② 被塗物が加熱に耐えるか
寸法の次は、素材と組み付け部品です。加熱で変形する薄板、樹脂部品が付いたまま外せないもの、熱処理の履歴があって温度を上げたくないもの。こうした対象は、加熱を伴う工法そのものが選べません。
素材そのものについては、鉄、アルミニウム、ステンレス、亜鉛めっきなど、金属であれば工法の選択肢は残ります。分かれ目は素材の種類より、「その温度を通してよいか」です。図面や仕様書に熱に関する制約があるなら、見積り依頼の時点で伝えてください。
条件③ 必要な膜厚と、塗る範囲
塗膜に何を求めるかで、向き不向きが分かれます。
- 厚みで防食性能を確保したいのか
- 細部や内面、複雑な形状の奥まで塗り込みたいのか
- 寸法精度が要求される合わせ面があるのか
このうちどれを優先するかを、発注側で1つ決めておくと、業者は工法と塗料系統を絞り込めます。「全部」と伝えると提案が総花的になり、結局比較できない見積りが返ってきます。
膜厚については、前述のJIS K 5981が「塗膜厚さ」を性能項目として規定しています。何ミクロン必要かを社内で決められない場合でも、「何から守りたいか」(さび、薬品、油、摩耗、屋外での紫外線)を伝えれば、そこから逆算した提案は受けられます。
条件④ 色の指定方法と、色数
色の伝え方は3通りあります。日本塗料工業会の色番号(日塗工番号)で指定する、RALで指定する、現物を渡して合わせてもらう。株式会社ユーコーではいずれの方法にも対応しています。
色数と数量の組み合わせは、段取りに直接影響します。同じ色でまとまった数量が出るのか、1点ずつ色が違うのか。ロット、サイズ、重量、納期は仕様によって変わるため、見積り前に整理しておく項目です。ここが決まっていないまま相見積りを取ると、各社の前提がばらばらになり、金額差の理由が読めなくなります。
条件⑤ 現場で塗るのか、持ち出せるのか
条件①の裏返しですが、実務ではここが工程計画に一番効きます。
| 現地施工 | 持ち帰り施工 | |
|---|---|---|
| 対象 | 動かせない設備・架台・配管・鉄骨 | 取り外せる部品・治具・カバー・盤の外装 |
| 選べる工法 | 液体塗装(常温乾燥・現場対応の焼付を含む) | 粉体塗装・焼付塗装・液体塗装 |
| 停止時間 | 養生から乾燥までその場所を止める | 取り外しと取り付けの時間のみ |
| 施工条件 | 温度・湿度・粉じんなど現場条件の影響を受ける | 設備の整った環境で条件を揃えられる |
株式会社ユーコーの場合、焼付塗装・粉体塗装の仕様であれば持ち帰り、それ以外は現地施工という切り分けをしています。現地での出張塗装は北海道から沖縄まで実績があり、焼付・粉体については持ち込みいただければ地域を問わず対応しています(工場での持ち帰り施工の集荷範囲は基本的に関西圏です)。
また、稼働中の工場でも施工は可能で、夜間・休日の対応も相談できます。ただし条件は現場ごとに変わるため、工程を組む前の確認が必要です。
3. 前処理を仕様から外さない
見積りを比較するときに最も差が出て、しかも最も見落とされるのが前処理です。
先に引用したJIS K 5981の適用範囲には「塗装前処理を施し」が入っています。規格が定める塗膜は、前処理を経たものを指しています。つまり前処理は、塗装の付属作業ではなく、塗膜の性能そのものを決める工程です。
前処理には脱脂、リン酸処理、ブラストなどがあり、どこまでやるかで金額は変わります。同じ塗料を使うと言っている見積りで金額が違うときは、たいていここが違います。見積書に前処理の記載がない場合は、何をどこまでやる前提かを聞いてください。書いていないものは、やらない前提かもしれません。
4. VOCの観点から工法を見直すとき
環境面から工法を検討する場合、押さえておく法令があります。
「大気汚染防止法の一部を改正する法律」は2004(平成16)年5月に成立し、揮発性有機化合物(VOC)の排出規制が導入されました。規制対象となる排出施設には、塗装施設および塗装後の乾燥・焼付施設が明記されています。
出典:独立行政法人環境再生保全機構「大気環境の情報館」揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策。
環境省は、この分野の施策の考え方を次のように示しています。
VOCの排出及び飛散の抑制に関する施策は、VOCの排出の規制と事業者が自主的に行うVOCの排出及び飛散の抑制のための取組とを適切に組み合わせて効果的に実施することとされています
環境省「揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制」
粉体塗料は粉末の状態で塗装するため、液体塗料のように溶剤で希釈する工程がありません。この点を理由に工法の見直しを検討する事業者はあります。ただし、自社の施設が規制対象に当たるかどうかは施設の種類と規模で決まるため、判断は所管の自治体・行政への確認が必要です。当サイトでこれを断定することはできません。
5. 見積り依頼の前に決めておく5項目
ここまでを、そのまま依頼時のチェックリストにします。相見積りを取る場合は、全社に同じ内容を渡すことが前提です。
- 素材 — 鉄、アルミニウム、ステンレス、亜鉛めっきなど。分かる範囲で
- 寸法・重量・数量 — 取り外して運べるかどうかも併せて
- 前処理の要否 — 現在の状態(さび、油分、旧塗膜の有無)が分かればその情報も
- 色の指定方法 — 日塗工番号、RAL、現物合わせのどれか。色数も
- 納期と施工場所 — 止められる時間帯、定期休止日の有無、構内作業のルール
この5つのうち、ロット・サイズ・重量・納期は「仕様によって変わる」ため、業者側から「要相談」と返ってくるのが正確な回答です。即答で数字が出てくるほうが、むしろ前提を確認していない可能性があります。
写真が数枚あると見立ての精度は上がります。全体が分かる引きの写真と、劣化している箇所の寄りの写真の両方があると確実です。
6. 断られやすい依頼には共通点がある
最後に、発注側にとって実務的に役に立つ話を1つ。株式会社ユーコーで、お断りすることが多い相談は次の2つです。
1つめは、金額だけで決まる案件です。仕様を問わずに単価だけを比べる引き合いは、前処理や膜厚といった、あとで効いてくる条件が揃っていません。同じ土俵に乗っていない見積りを並べても、安いほうが得だとは限りません。
2つめは、塗装不良の懸念を無視した短納期です。加熱硬化にも、前処理にも、必要な時間があります。そこを削って引き受ければ、剥離や膨れとして後から出ます。設備を2回止めることになれば、短縮したはずの時間は失われます。
断る基準を先に出しておくのは、発注側にとっても無駄な打診を減らせるという意味があります。見積り段階でこうした条件を説明できるかどうかは、そのまま施工体制の目安になります。
7. まとめ
粉体塗装と液体塗装の選択は、性能比較ではなく条件の確認から始まります。
- 炉に入るか — 入らなければ粉体塗装は選べません
- 加熱に耐えるか — 素材の種類より「その温度を通してよいか」
- 膜厚か、塗り込みか、寸法精度か — 優先するものを1つ決める
- 色の指定方法と色数 — 数量との組み合わせが段取りを決めます
- 現地か、持ち出しか — 工程計画に一番効きます
そして前処理は、どちらの工法でも仕様から外さないこと。JIS K 5981が塗膜の定義に前処理を含めているのは、そこが性能を決めるからです。
粉体塗装・焼付塗装を実際に検討する場合
5つの条件が整理できたら、あとは対応できる設備を持つ会社に確認する段階です。炉の寸法や対応素材は施工側の設備で決まるため、対象物の情報を渡して可否を聞くのが最短になります。
金属部品の焼付塗装・粉体塗装を手がける株式会社ユーコーが、対応範囲と工程を公開しています。
※塗装naviプラスは株式会社ユーコーが運営する情報サイトです。当サイトでは塗装工事を行っておりません。施工のご相談は上記より直接お問い合わせください。
出典
- JIS K 5981:2006「合成樹脂粉体塗膜」適用範囲および塗膜の性能項目(2006年制定、2020年10月用語修正)
- 独立行政法人環境再生保全機構「大気環境の情報館」揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策
- 環境省「揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制」
- 対応寸法・素材・前処理・色指定・対応エリア・施工条件は、株式会社ユーコーへの確認事項(2026年9月時点)
